10年の時を置き去りにされた町。
帰還困難区域について今更説明は不要か。
2011年3月11日に発生した東京電力福島第一発電所事故の影響で放射線量が極めて高く、政府の指示によって住民の立ち入りを制限している区域。
2021年現在、一部地域において指示が解除されているがまだまだ除染作業は続けられている。区域境界には物理的なバリケードと警備員が配備され、許可なき者の立ち入りはできないこととなっている。
今回は令和2年に制限の解除された福島県富岡町、常磐線夜ノ森駅周辺を歩いてみた。
富岡町に入り、帰還困難区域を示す看板からほどなくして存在するのが夜ノ森駅。
国道から駅までの道のりが既にゴーストタウンのそれだった。
桜並木が続く道路。
脇を見ればバリケードで覆われている。
人通りは無く、作業関係のトラックや社用車が走るだけ。
まるでフィクションのような光景が現実に広がっていた。
駅前の駐車場を降りる。
迎えてくれたのは昨年に建て替えられた新しい駅舎と広大な駐車場。そして見慣れない放射線量の計測機械だった。
リアルタイムで放射線量が分かる。
一時期はニュースを見るたびにシーベルトという言葉を耳にしていたが、現在はすっかり聞かれなくなったものだ。
駅の周囲を囲う形で張られた鉄柵。通行止めを示す黄色に赤字という警戒色の看板。
許可のある者以外は立ち寄ることのできない場所だ。
その先の景色は見慣れた普通の住宅地。
傷んだ家屋と侵食する雑草が10年という長い年月を感じさせる。
この街はあの日のまま。それでも月日は流れている。
駅前の酒屋に残された自動販売機たち。
もちろん並んでいるのは10年前の物。煙草の価格が分かりやすい。
店のシャッターは半開きでカプセルトイの筐体が並ぶ。
「もやしもん」のアニメが2010年頃に放映されていたはずだ。懐かしい。
酒屋の隣にはレトロなゲームセンターが並ぶ。
その名も理想郷。現在の状況を考えると皮肉な話だ。
それにしても渋いな。10年前でも現役だったら驚くかな。
理想郷の出入り口は封鎖されており中の確認はできない。
藤原愛子調査という田舎でよく見る探偵のポスターがあることから原発事故以前より閉店していたのだろう。
駅前ということで店舗跡の廃墟が多い。
バリケードに掲げられた桜の花びら。
故郷へ帰ることのできなくなった人々の想いが記されている。
点滅する事のない信号機。
黄色い点滅を繰り返す信号機。
バイクはもちろん車もあの日のまま。
“原発事故で故郷を奪われた“
文字や言葉では良く聞くことだ。こうして訪れてみるとその怖さを実感する。
土地や家だけでなく財産も失ってしまう。
正確にいえば、失ってはいないのだが、手が届くのにどうしようもできない。
それもまた残酷なことではないだろうか。
故郷に帰れなくなった人とは対照的に植物は活き活きと茂る。
哀愁を感じても湧き上がるのは虚しさだけ。
帰る故郷がなくなること。
変わらない町並みに張りめぐされたバリケード。
住人だった人の悲しみを考えると言葉にならない。
夜ノ森駅周辺の探索はまだまだ始まったばかりだ。
その②へ続く。