「栄枯盛衰」
もしくは諸行無常。鬼怒川温泉の廃墟群について一言で表現するのならばこれ程ぴったりな言葉はない。そしてそれは廃墟の魅力を語る上で外せない言葉だ。
今回訪れたのは栃木県日光市にある鬼怒川温泉。数年前から複数のメディアで温泉街一帯の廃墟化が取り上げられているのを目にしていた。それを見ていた私はどれだけ寂れているのか想像するだけで胸を踊らせていた。
訪問は2020年の10月下旬。紅葉シーズンの真っ只中であった。
本当は中禅寺湖へ行く予定であったがいろは坂がとてつもない渋滞のため急遽変更してやって来た。
到着は夕方となってしまったが、ちらほらと観光客も目にした。楽しそうに紅葉を楽しむ人たちを尻目にせっせと廃墟群の写真を撮る私。
うーん、どうだろう。紅葉が見頃の中禅寺湖と違ってこの辺りはもう少しかな。
いまいちスケールの大きさが伝わらないのは私の技術不足なんだろうね。ちなみに川を間に右側にある建物は現役の施設であり対比が面白い。
かつてはここから見える全ての景色に多くの従業員が存在し、観光客が楽しい時間を過ごしていたのだろう。栄えていた今は昔。それは高度経済成長とバブルがもたらした幻想だったのか。賑わいは消え、ただ朽ちていくだけの様はまさに栄枯盛衰、諸行無常といったものだろう。
今回、訪問の目的は数ある鬼怒川温泉の廃墟の中でもランドマークとなっている例のお風呂。
実は2019年にも訪問しているがその時の準備不足とするや否や!ライトも無い、携帯も充電が残りわずかで内部の探索がほとんで出来ず消化不良に終わっていた。特に様々な媒体で目にしていた鹿の剥製とゲームコーナーを見つけられずにいたのはずっと心残りであったのだ。
かっぱちゃーん!久しぶりーー!
ただそこにある。それだけで愛おしい。
この一年、雨の日も風の日も嬉しい時も悲しい時もかっぱの置物はずっとそこにあったんだ。
左右対称のお風呂。割れたガラスから覗く美しい自然の風景が良いアクセント。
ちなみにかっぱ風呂は男性用浴室しか存在しない。かっぱ風呂を前面に押し出している割りに女性用を用意していないのは旅館としてどうかと思うよ!
しばし小休止。浴槽の縁に座りゆったりとした時間が流れる。
かっぱちゃんとの再会を楽しみつつも陽が落ちる前には探索を終えたいので先を急ぐ。
旅館の部屋は昭和の典型的なタイプ。ダイヤル式電話を見かけるとついつい被写体にしてしまうのは廃墟撮影あるあるだと思っている。もちろん窓際には例の小部屋が付属されている。
屋上から眺める鬼怒川と旅館街。ここから見える施設は元気に営業しているのだろうか。
この旅館は増築に増築を重ねた様子で迷路の様に入り組んでいる。
ツギハギの様な形で継ぎ足した部分が崩壊している。実際に通れない場所も多くあり、改めて廃墟探索の危険性を思い知る。ここでは誰も助けてくれないのだ。
河童の壁画。これも可愛い。
モザイクアートで構成されている。鬼怒川で健気に暮らす河童たちの姿が目に浮かぶ。
とにかく河童推し。良いセンスだ。
地下空間も素敵。目立つ案内で会議室とあったが従業員以外の利用もあったのだろうか。
先人の探索者が残した軌跡も数多く見られる。
階段を登る。降りる。そして探す。詳しい案内図はないのか探すも空振りに終わる。
避難経路を示した簡易なものは発見したがまるで役に立たず。
同じ道を何度通ったか、ようやく鹿の剥製と遭遇。
嬉しいが完全に日没だ。道路沿いの探索は緊張感が増す。
巨大な宴会場。全盛期は団体客でさぞ賑わっていたのだろう。
たぶん私は歓迎されていない。でも想いにふける。
ここにも鹿が‥‥。
暗闇の中にひとり。時が止まった場所。日常生活では味わえない感覚がここにある。
銅像を発見。天井にバウンスさせたLEDが天使の輪のようだ。これを撮った時は面白い!ハイセンスなものを撮れた!と思っていたが見返すと・・・。
自分のセンスが憎い。
かなりブレてしまっているが「至急開封」と穏やかではない手紙。末期の経営状態が伺える。
さらに探索を続けるがゲームコーナーが見つからない。
この道は何回通ったのだろうか。昭和の色が濃く残る造りの旅館だ。
このエレベーターのフォントとか大好きです!
謎の絵画。こういう目立つ物をなんとなく目印に暗闇を進む。
もう諦めて、最後にかっぱちゃんに挨拶して帰ろうかと道を戻る。
そういえばまだ探索していない道があった。
かっぱ風呂の上階へ。エレベーターは使えない。もちろん階段だ。
この辺りは前回の探索で来ているはずだが。
しばらく進んだ先、不意に現れる。
ゲームコーナー・カラオケボックス
うおぉぉー!ついに発見。
幼き日々の記憶が呼び起こされる。
実際に触ったことのないものも多くあるがノスタルジーが止まらない!
母に100円貰ってメダルゲームに興じたり、ストⅡで乱入されて一方的に屠られた思い出も今では輝いている。
ギリギリ平成生まれの私には馴染みのない形のカラオケボックスだ。
カラオケカプセルと表記あり。クロノ・トリガーの未来にあるエナボックスを思い出す。1曲200円はちっと高いかな。音漏れが気になるから音痴の私には覚悟がいるな。
しかし、ここまで暗いときちんとした写真をとるのも一苦労だ。道中で心が折れかけて雑になってしまった部分を反省。
帰り道。すでに真っ暗。
予定では近くの日帰り温泉へ寄るはずであったが定休日ということで断念。大人しく車へ戻ろう。
夜の鬼怒川温泉を少し散歩して探索を終える。
感想
観光が団体客をメインに扱っていた時代の名残のある物件。目を閉じればひび割れた可愛い河童たちの光景が広がってくる。どこぞの文豪が執筆した格式のある宿とは違ったものだが、大衆的な昭和情緒を感じる。現在人気な体験型リゾートとは真逆であるが廃墟化した今、こうして昭和情緒を体験できてしまうのは何とも皮肉な話なのかもしれない。
かっぱちゃんに愛を込めて。