廃校はいいぞ!
数ある廃墟の中で私がこよなく愛しているのは廃校だ。
誰もいなくなった校舎に立つとノスタルジーを感じずにはいられない。
児童の笑い声に溢れていた時代に思いを馳せるとともに自分の記憶が呼び起こされる。そんな感傷に浸れる特別な時間だ。
その時間を求めて廃校に訪れる。
今回の物件は遠州の小京都、静岡県周智郡森町。携帯の電波も届かない山奥にひっそりと存在する。
この物件は非常に分かりにくい場所にあり、初見で辿り着くまでには苦労した記憶がある。
しかし場所さえ覚えれば分かりやすい。
自宅から車で2時間ほどとアクセスが良いため新しいカメラやレンズを買った際は試し撮りに訪れている。
詳しくは伏せるが道路沿いの廃車を目印に近くの階段を上がれば廃集落がある。そこの中を通って10分ほど山を登れば到着となる。
訪問は2020年10月。
平地でも涼しさを感じ始めたそんな日だった。
この廃集落は数年前まで住人が居たそうだが、現在は無人のようだ。画像の奥には製茶工場。もちろん廃墟となっている。
とりあえず道沿いの廃屋へ。
ここに居る彼とはこれで何度目かな。気分はスッカリともだちだ。
普段は横になっている彼だが今日は立ち上がっている。ふむふむ、どうやら私の他にもともだちが訪ねているようだ。
集落を抜けて山道を登る。
ここから短い距離だが勾配があり、自分の体力の衰えを実感する。
到着。
季節を問わず息を切らし汗を流しながらの訪問だ。子供たちはこれを毎日通っていたのか…
ピンク色の可愛い木造校舎。
学校自体は小さなもので探索だけならすぐ済ませる。それでも残留物が多くあり見応えは充分。
おそらく通った廃集落の児童だけが通っていたと思われる。全校生徒も両手で数えられる程度だったのではないか?
保存状態も人為的な破壊はなく自然な形で崩れゆく日を待っている形だ。
校舎の他に教員用の住宅、体育倉庫、神社が敷地内に建てられている。
まずは教室へ向かうため裏側へ回る。
小さな机と椅子が並べられている教室。
私にもこのくらいの時期があったんだなと懐かしむ。
教壇に立つ。まるで気分は先生だ。
黒板には卒業生訪問の寄せ書きもある。ここから巣立った生徒諸君は立派に成長したみたいで先生は嬉しいぞ!
力強い出発。良い言葉だ。こういう何気ない標語が胸に刺さる年齢になってしまった。まだまだこれから。よし、がんばろう。
机や棚の上にも残留物は豊富で訪問者を飽きさせない。郵便ポストのキャラクターが現場ネコみたいなポーズをしている。ヨシ!
購買ノートを発見。今でこそ山奥でも指先ひとつで買い物のできる時代になったが、この当時は苦労したのだろうなぁ。
窓枠も可愛い。壁の上の年表は私の教室でも貼ってあった。テストの時にガン見してたことはクラスのみんなには内緒だよ。
むむむ!五輪マークが完成しそうでしていない。これは2021年に開催が延期された東京五輪に向けての暗示なのか?
次は勝手に教材室と呼んでいる部屋。机がちょこんとひとつだけ。地球儀がナイスなお部屋。よく見ると地球儀の台座がう〇ちにも見えてくるのは今だけだと思いたい。後方はほとんどが教材ばかり。
版画と言えば滝平二郎。小さい頃はちょっぴり怖かった。
可愛いお馬のハニワと寄生虫の標本。
探索者用のノートを発見。
関係ないが昔はゲームセンターにこのようなコミュニケーションノートが存在していたよね。あれ眺めるの好きだったなー。
上を見上げると東西南北。この部屋の見所は天井にもある。
職員室。彼女はいつも訪問者に優しい眼差しを向けている。
立派な旗は理髪店からの提供。きっと子供思いの床屋さんだったのだろう。
ここは職員用の休憩室なのかな。保健室としても使われそう。古い雑誌とモダンな机が置かれていた。
廊下は崩壊が激しいみたい。
この遊具達は使われなくなって何年経つのだろうか。
跳び箱とグローブ。絡んだ蔦が儚さを演出。
小さな神社が併設されている。児童を見守る役目を終えた社は校舎と共に自然へ帰るのを待っている。
校舎を挟んで教員用の住宅と思われる建物がある。今なら車で通える距離だが昔は赴任してきてここで暮らすという形だったのではないか?中は至って普通の廃屋だ。
可愛い自転車が放置されている。こんな山奥で自転車とは。一輪車的な感じで校庭で遊んでいたのかな?
さて、1周。日が暮れる前に市街地へ出たい。そろそろ帰ろうかな。
最後に覗く教室。気分は授業をこっそり見に来たお母さん。
気を抜くといつまでも居てしまう気がする。下校しなければ。後ろ髪を引かれつつも小さな学び舎に別れを告げるとしよう。
感想
静岡県でトップクラスで有名な廃校。
役目を終えて今はひっそりと山奥で佇んでいる。
コンパクトであるが保存状態が良い。往年の姿そのままに時だけ過ぎた形で様々な残留物が迎え入れてくれている。探索する時間こそ少ないがノスタルジーに溢れている優良物件だ。私はバリバリの鉄筋コンクリート校舎で育ったが木造校舎は何故か懐かしく感じてしまう。近所にはキャンプ場もありアクセスこそ悪くないものの道路は落石も多く注意が必要。