ニイハオ!
碑林とはなかなか日常生活では聞いたことのない言葉。非日常な空間がそこで待っている。
アイヤー!
道沿いから見えるこの景色だけで香ばしいオーラが隠しきれていないアル。
入り口へ向かう坂道にはみんな大好き四聖獣が出迎えてくれている。はてさて、この施設は何でしょうか。
ででーん!この圧倒的な中国感。
この施設の正体とは、中国にある国宝級の碑文をたくさん完コピした石碑の公園なのです。石碑が集められた場所を碑林と呼ぶ。
建設大臣!土建国家ニッポンここに在り。
そう、これは公共事業。つまりは税金で建てられた立派なハコモノ行政。あの日本全国に珍スポットを乱立させた悪名高き”ふるさと創生事業”を基に配られた1億円を遥かにオーバーする総製作費13億円の豪華絢爛な造り。完コピに当たって本場中国人の監修も受けたとかいう気合いの入りっぷり。おそらく計画段階ではバブル絶頂期で開設する頃には弾けていたんだろうね。
何故、山梨県に中国の石碑が?
疑問ですよね。それはここ 市川大門町が書道に使われる和紙の生産地であることに因んでいる。それ故に古来より書道の宝殿とされる中国の石碑を集めて、書道の町づくりの中核をなす場所として建てられたということ。
うん、分からん。何かの連想ゲームかな。
なかなかにブッ飛んだ発想。これこそまさに90年代のハコモノ施設の醍醐味よ。
門の中に受付があり、そこで入場料を払う。そこから内部が見られるのだが閑古鳥が鳴いている。それもそのはず、ひとり600円と微妙に高額な入場料が必要なのだから。この日はコロナ禍ということで受付で記帳があったのだが、日曜の正午前で先人は3組。13億円掛けたにしてはアイヤーな状況だ。巨額な税金に対してこの現状から常に税金の無駄遣いと槍玉に上がるのは頷ける。そんなアイヤーでケッヘイなこの施設、我々スキモノからしたら絶好の観光スポットだ。
受付のオジサマはとても優しく親切な方で書道関連の話を絡めながら熱心に施設の説明をして頂いた。静岡から来たと伝えると遠い所からと喜ばれた。珍スポットとして見に来ただけなんだ・・・ごめんねオジサマ。
中に入ると、四聖獣とよく分からない謎の像がたくさん。亀の石碑にはかつての町長のありがたい言葉が刻まれていた。喫煙所に居たお兄さんは本格的な撮影機材を持っていたのだが、ここはコスプレ撮影に人気な場所。おそらくその筋の人だろう。
一歩足を踏み入れるとそこは中華ワールドが広がる。
石碑には丁寧に三ヶ国の音声ガイドも備わっている。ただ、その意味を理解するには私の教養では至らなかった。ちょっと難しすぎるよ。
人気の観光地と違って珍スポット的なハコモノは人がいないから写真を撮る趣味にはうってつけ。石碑の意味も分からなければ特に興味のない私でも写真を撮っていて楽しい場所だ。
ズラリと広がるのは町民の石碑。小学生のコンクール受賞作までも石碑になるとは、税金の使い方が大胆で素敵だ。
そしてその先の坂は懐かしいきんさんぎんさんが登ったという長寿坂。実にハコモノ的な看板に卒倒しそうでございます。
入場時は人影がなくアイヤーな13億円と言ったが、されど13億円。豊潤な予算に物を言わせた贅沢な造りであることは見るモノを飽きさせない。難解すぎて書道文化の啓発には1ミリもなっていないけれど。
ここは拓本の体験ができるコーナー。この日は書道関係者らしき人たちが実際に拓本をやっていた。書道関係者は衣服がスミで汚れないように黒い服を着ているから分かりやすい。
こんな感じで石碑の文字を書き写していた。生で見るのは初めてだなー。関係者の方にはこの曲線が堪らないみたいなことが分かるのだろうか。
高台から見る景色はまさに絶景。甲府盆地と南アルプスの山々が広がる。
じっくり見ると庭園の池が干からびていることに気が付く。たぶん赤字だし経費削減は大事。
順路に沿って上へ登る。間隔は短いわけでないが石碑が並ぶ。最初の頃は面白がって音声ガイドを押していたがこの頃には見向きもしなくなっていた。
この圧倒的な灰皿の数々がどこか懐かしい。私の幼少期なんかはデパートのエレベーター前とか普通に灰皿があったねー。
なぜかコアラな水飲み場。現代的なハコモノにはないゆるさが愛おしい。
頂上手前の展望台。この景色をひとりじめできるなら600円を払う価値はあるのかな。残念ながら八ヶ岳の尾根は雲で隠れていた。ここで夜景撮影できたら楽しそうだ。
頂上の石碑三連。さすがに頂にあるだけあって今までのものよりもさらに豪華絢爛。
細かい部分の作り込みも見事。瓦の碑林文字が可愛い。
日曜日ということもあってコスプレ写真を撮っている方が居た。ロケーションとしては一等地なのだろう。人も少ないのも良い。ロッカー室の貸出もできるそうで公式サイトにも案内がある。
一般客の方と初遭遇。熱心に石碑を眺めていた。旦那さんが書道関係の方なのか奥さんへ解説していた。見事に頂上で書道関係者、コスプレ愛好家、珍スポット探索者と三者三様の楽しみ方に分かれたのは面白い偶然だ。下へ戻る際に入り口の喫煙所にいたカメラマンの方がコスプレ美女を引き連れてちょうど入れ違いになった。
帰り際に裏側から公園を眺める。本当に景観はいいな。結局、石碑の歴史も地場産業についても学べなかったが立地だけは文句の付け所がない。
竹林の虎。どちらかというと雑草に覆われていた。それでも力強い表情が素敵。
帰り際に受付のオジサマに呼び止められる。なんとお土産に拓本を頂いた。しかも可愛い小鳥さん。これは嬉しい。どこに飾ろうかな。
感想
ハコモノらしい脱力感も少なからず見られるが至極真っ当な石碑の公園。書道のまちづくりの中核を成すには求められる教養のレベルや知的好奇心が高すぎる気が否めない。私も小学生の頃に書道を習っており、段位もあるが臨書とは縁がなかったな。ついでに入場料も高いこともネックなのかとにかく人がいない。一応近隣住民は無料ということだが、ここへ来ても何かで遊べるわけでもないし子連れ向けではないことは確かだ。そもそも地場産業の和紙から中国の庭園と石碑という発想が間違っていると思うが、珍スポット的にはそこが一番の魅力だったりする。コロナ禍で海岸旅行に行けないと嘆くそこの貴方!山梨県で中華旅行気分を味わってみればどうだろうか。