三重県の県庁所在地である津市。
その中心街は浅草・大須と並び日本三大観音に数えられる津観音の門前町周辺となっている。
津観音の表参道に並ぶ大門大通り商店街。
その脇に佇んでいる大門商店街飲食店街が今回の目的地。
・・・文字が剥がれてしまっている。
看板からして尋常でないレトロぶりを見せてくれた。
商店街は2件の飲食店ビルの間にアーケードが形成されている。
ビルの1階が店舗で2階が住居といった形か。トタン屋根を支える鉄骨のアーチが力強い。
土曜の昼下がりであったが人影はまばら。道の中央を堂々と鳩が闊歩していた。
本屋、化粧品、理容店といった専門店も見られるが現役っぽいのは飲み屋ばかりといった印象。
店舗はアーケードに面した場所だけでなく、ビルの1階が個人経営の居酒屋やスナックのひしめく飲食街の通路となっていた。
ランタン通り。
こちらは現代風にリノベーションされている。もともとは南通りの一角だったと思われる。
文字通り昼間でもランタンの暖かい灯火が幻想的に彩っていた。
一歩抜け出すと現実に戻る。
現実というのかある意味では非日常な昭和空間。
頭上にある排水管が水漏れを起こしている様子で足元には水溜りができていた。これはこれで美しくランタンの灯火を反射していた。
ランタン通り側にも出入り口があった。うっすらと見える「皆さまの大門商店街」のネオン管だろうか?
美容室マドンナも良いが、このランタン通りにあるスナックりずむの看板が特に印象に残った。ファンシーの意味が感覚的に良く分かる文体でございます。
アーケードを通り過ぎると津観音が見えてくる。
大須や浅草に比べるとやや見劣りするものの、それでも立派な造りだった。若干色褪せた感じも良き。
こちらの表参道にある大門大通り商店街もかつてはアーケードが形成されていたのだが、数年前に撤去された模様。建物のデザインでアーケードの高さが何となく見えてしまうのが悲しさを助長していた。
私好みな店舗も多数あり。
ここでも写真を撮りまくる。
さて、大門商店街へ戻る。
商店街の裏側。生活感が垣間見える。
ここからアーケード街でいう北通りへ入ることができる。
薄暗い中に浮かぶ無数の看板たち。視点を切り替えると幾通りにも表情を変化させる空間。本当に何往復したのか分からない。いつまでも過ごせる場所だ。
店舗から聞こえる笑い声、カラオケのメロディ。夜など待てない。
鳩の鳴き声に混ざって聞こえる金属音。平和のシンボルはいつだって自由だ。彼らにとっても居心地の良い場所なのだろう。糞害さえなければいいのだが。
剥き出しの排水管、垂れる水滴、スプレー缶の落書き・・・
アナーキーな表情や暗闇すらもここでは魅力に感じてしまう。
「所有者は津市ですね」
多数の貼り紙全てに律儀なツッコミが記入されていた。
探索を外観を撮影していると妙齢の男性から話しかけられる。
会話をする中で「僕はここを歩くといつでも戻れるのです」と胸に手を当てて言った言葉が印象的だった。今では廃れた印象のある場所だが、男性の幼い頃は隣に映画館が複数並び賑わいのある町だった。社会人となって40年を名古屋で過ごし、帰ってきた地元は驚くくらい廃れていた。それでも楽しかった思い出は消えず、日課の散歩でここを通るたびにかつての景色と気持ちが蘇る。「毎日あの頃の自分に戻っている」と、はに噛んだ笑顔で繰り返してお話しされていた。こんな素敵な人生ってあるんだな。憧れに近い気持ちを持つとともに商店街の持つ魅力というものも再認識した1日だった。