潰れてもいいじゃないか。廃墟だもの。
今回の訪問は日本で例のウイルスが流行し始める少し前のこと。
S診療所は写真集や本で見た憧れのような場所。もともとレトロモダンなデザインが大好きで大正桜にロマンの嵐といった感じで眺めていた。
場所については洲原神社を目指して出発。近くにあると言われている”神の住む家”と呼ばれている廃屋も視野に手探りで見つけることとした。
洲原神社に到着。
これはこれでかなり立派な雰囲気のある場所だ。
神社を通り抜けてすぐに廃屋を発見。
内部の崩壊が凄まじいな。
いちおう神棚を発見。ここが神の住む家なのかな。
かなり朽ちており往年の姿はそこにはない。
次に本命。S診療所だ。
周囲を歩くとすぐに住宅街となる。
廃屋を発見するがここではないようだ。
そして辺りには怪しい薮がある。
奥の方に潰れた廃屋が!
潰れていたとしても痕跡を見つけたい。その一心で意をけして薮へ飛び込む。
うぅ。辛い。
近くまで行くが痕跡が見つからない。せめて何か手がかりでもあればと立ち竦む時、薮の外から話し声が聞こえた。
「この辺だと思ったけどなー」
「もういいよー」
!?
これは同業者の声か?さすが超有名物件。私の他にも探索者が。
一緒に探しませんか?と声を掛けたいが私は藪の中。とりあえず外へ出てみる。
道路へ出て雑草を払っていると生垣の奥から話し声がする。
あきらかに廃な空気のある怪しい生垣だ。さっき通った時は何故か気が付かなかった。
進んでみると潰れかけた廃屋がある。そしてその前にカップルが廃屋を見つめている。先ほどの声の主とは違うみたいだ。
こんにちは。と声を掛けてみる。
「もしかして、S診療所ですか?」
ふむ。私の心の内を覗いたようだ。
とはいえ、この場所でカメラを下げていれば目的は分かるか。
彼氏さん曰く、多分ここだと思うが崩壊激しく確証がないということ。
しばし歓談。聞けば彼氏さんの方も薮漕ぎしたそうで。お互いに何でこの生垣に気が付かなかったかなと笑う。
手分けして痕跡を探すことに。
潰れた廃屋の窓から内部を見るが天井の崩落激しく先へは進めない。
諦めずに目を凝らす。
どこはかとなくレトロ浪漫な雰囲気が残る。窓枠の趣向からも普通の廃屋でないオーラがある。
多分ここで間違いないですよと声を掛けた直後、診療所の受付の痕跡を発見。
「こっちから入れそうです」
先へ進んだカップルから嬉しい報告が。
ナニワトモアレ完全に崩壊する前に来れて良かった。
内部へ進んだ二人がスマホで撮影を始めた。
しばし待つ。周囲を探すと薬品の入っていたと思われる空き瓶が落ちている。
撮影を終えた二人と別れ、いよいよ私の番だ。
ここは有名な診察室。二階部分の崩落で大部分は潰れてしまっているが面影は残ったままだ。よくぞ潰れないでいてくれたッ!
分娩台の上には大黒さまが鎮座。
大黒さま「よくぞ参られた。貴方が来るまで持ちこたえて見せましたよ。」
ありがとう。大黒さま。
ここは本当に絵になるなー。素敵すぎる。
崩落の影響で立ち入れる場所はかなり限られている。
事前情報がなければ診療所だとは思えなかったかもしれないほどだ。
薬品棚。
かつてはここに瓶詰めの薬品が並べてあった。有名すぎるが故に心ない探索者によってかなり荒らされたと聞く。
最初に見つけた受付の反対側。崩落が酷くて近づけなかった。
満洲国、戦時高揚・・・
こういう時代を感じることのできる残留物が残っていてくれて嬉しいよ。
帰り際に薮の外で話していた方々と遭遇。何と家族連れだった。奥さんが呆れた顔で付き合っていたみたい。旦那さんと息子は自分が藪の中から出てきたのを見て藪へ潜ったと・・・
ゴメンね!
上の二枚は後日撮ったもの。別の廃墟へ行った帰りについつい寄ってしまった。同じような構図で恐縮だが、何度でも見たくなる本当に魅力的な部屋だ。
感想
憧れを持っていた物件だったため是が非でも拝見したいと思っていた物件。潰れかけていたがその姿を目にすることができて嬉しかった。廃墟には旬みたいなものがあって経年変化で魅力が変わる場合もあると思う。私個人としてはやはり潰れていない姿を見てみたかったのが本音であるが、この建物の最後の煌めきを目にすることができたのは素直に良かったと言える。最後というのは、現在、健全ナル國民ノ診療所と呼ばれた物件は前年の大雨で完全に崩壊してしまったためだ。今見た景色が次に見れるとは限らない。廃墟に関わらず今という時間を大切にしたいものだ。