ランクルの眠る旧国道
「草ヒロ」という空き地や山中に放置されてボロボロになった車を指す現代用語。これは旧車専門誌の「ノスタルジックヒーロー」のワンコーナーである「草むらのヒーロー」が由来とされ、主にSNSなどで使用されている言葉。
私自身に馴染みのある言葉ではないのだが、草ヒロと聞いて真っ先に思い浮かべるのは廃トンネルの前に放置されたランドクルーザーの風景。古くから廃墟系のブログや写真集などで目にすることが多く、その幽玄たる姿に心を動かされたものだ。
・・・というわけで訪問したのが昨年の春先だった。
しかし写真データを紛失してしまい今回は再訪問。1年近く掛かってしまったのは房総半島名物ヤマビルを回避するため。
場所は君津市と鴨川市を結ぶ国道410号線の旧道。ちょうど君鴨トンネルのある位置となる。新道を見下ろす形で走っていた旧道は4t車の通行は不可能で普通車のすれ違いでも苦労する所謂”酷道”だった。
ランドクルーザーが放置されている場所は君鴨トンネル付近の分岐点から徒歩10〜15分を要する。山間部へ入るエリアにも1台の草ヒロがあった。
凄い形で地面にめりこんでいる軽自動車MOVE。
汚い落書き・・・。1年前に来た時にはなかったのに悲しい。
君鴨トンネルの開通が平成5年。それからしばらくは旧道も使われていたそうだが2000年頃には閉鎖となっている。
この子はいつ頃からいるのかは不明だが、2000年問題も四半世紀前。世紀末の喧騒も遠い昔の話になってしまった。
そこからしばらく薄暗い廃道を進む。
荒れたアスファルト。
放置されたガードレール。
薮に覆われたカーブミラー。
役目を終えた人工物は静かに最後の刻を待つ。
その最果てで鎮座するのは伝説の草ヒロ。
近づくごとに胸が高まる。
塞がれたトンネルと倒木を前に放置された苔むす廃車。”伝説”と呼ばれるのも納得できる光景だ。
儚く美しい。時の止まった世界。廃墟美の全てが集約されている。
奥に見えるは三島隧道というトンネル。以前に訪れた時は閉じられていたが何者かがこじ開けた模様。
近くにはトンネル工事で出た殉職者を祀る石碑があった。
手前にあった限界高の標識は2.9mを示す。
ランドクルーザーは「CYGNUS」というモデル。北米ではレクサスLX470として販売されていた高級車。1998年から2007年まで製造されていたロングセラー。
ナンバーは外されている。
ランドクルーザーはハイエースと並ぶ盗難されやすい車。リセールバリューも大変高く放置されるのは何かしらの訳ありだろう。
そういえば以前はこの車と山道入り口の車にも放置を警告する貼り紙があったのだが綺麗さっぱり消えていた。
元の色が分からないほどエイジングされた車体。
運転席側。
トンネル前は土砂で盛り上がっていた。
ここまで埋まるにはどれほどの年月が必要なのか全く検討が付かない。
フロントガラスはバッキバキ。
何回も言うが凄まじい緑。
気になる車内といえば・・・
オープン!
外観に負けず劣らず緑一色。
こんな状態になっても品を感じるのはさすが高級車。
後部座席側。
もちのろんで乗り込む勇気はない。
以上、三島隧道と廃道のランクル。
廃車ながらクロスカントリーの王者たる佇まいを見せるランドクルーザー。
何の変哲もない廃道にランクルが放置されたお陰で極上の廃空間と遂げた。きっとこれからも多くの人を魅了させていくのだろう。幽玄の世界がここにはあった。